新米がおいしい。この一粒一粒に作り手の物語が詰まっているのだと思うと、愛おしくなる。
健康や環境に配慮した食料生産と持続可能性の向上が世界共通の課題である今、日本の米づくりも大きな転換期を迎えている。2021年に発表された「みどりの食料システム戦略」では、有機農業の耕作面積を2050年までに0.6%から25%へ、化学農薬の使用量は50%削減、化学肥料の使用量を30%低減するという目標を掲げている。これまでの農業政策から大きく舵を切った形だ。
慣行農業から有機農業へ。農業生産者だけでなく、食品産業や機械・資材メーカー等の事業者、そして消費者も全てが関わる、これまでの常識がひっくり返るほどの大転換だ。
戦後求められたのは、短期間にたくさんの食料を安定的に供給すること。単一品種で効率良く大量生産し、低価格で販売できる仕組みが経済効果を生むのだと。
そのために研究開発された化学肥料や農薬は画期的だったし、それらを使うのは常識だった。なにしろ国の政策だったわけで、“慣行農業”と呼ばれているように、今も多くの生産者が行っている一般的な農法だ。
だが今は、化学肥料や農薬の販売をしているJAが率先して有機農業に取り組み、研究や指導をしているという時代になった。
無農薬の米づくりは手間が掛かる。とりわけ悩まされるのが雑草との闘いだ。農薬を使わずに雑草が生えないようにするために、さまざまな知恵が絞られ、実験が行われている。
その一つにこんな農法がある。稲刈りが終わった後の冬場、田んぼに水をためて生きものたちの棲みかとして、彼らの助けを借りるという方法だ。
水を張った田んぼに米ぬかなどの有機物を入れると、発酵が起こって微生物やイトミミズが増える。
イトミミズは泥ごと餌を食べて、糞を土壌表面に排泄する。大きな粒子は食べられないので糞には雑草の種や砂粒は含まれていない。せっせせっせと排泄を繰り返してくれることによって、表面に数センチの粒子の細かい泥の「トロトロ層」ができる。このトロトロ層が優れものなのだ。
トロトロ層が堆積すると、雑草の種を覆い隠して太陽の光を遮る。種子は重いので、出芽できない深さに埋没した雑草は出てこられなくなる。
田んぼの生きものたちが、おいしい米づくりのパートナーというわけだ。
稲わらや米ぬか、廃棄される鶏の糞や食肉残渣も有機肥料として使うなど、有期栽培の米づくりへといろいろな新しい挑戦が始まっている。
地球に優しいだけではなく財布にも優しくなければ、“オーガニックは当たり前“の世の中にはならない。一足飛びにはいかないが、それでも明るい話が聞こえてくるとうれしくなる。
(参考)
『日本農業新聞』2022.10.27 「イトミミズ除草の効果的な条件解明 田の『トロトロ層』で発芽抑制 鳥取県が検証」