第16回 第2の脳「腸」

朝、目覚めてまず考えること、今晩のおかずは何にしようか。
夜、布団に入ってまず考えること、明日の朝は何を食べようか。
そして朝食を食べながら、お昼は何を食べようかと考える。

とまあ、なんだかいつも食べることばかり考えているので、まるで腹に脳があるようだなと自分でもあきれてしまう。だが、これはあながち外れてはいないのだ。
朝起きて日光を浴びると脳が目覚め、脳内にある体内時計がリセットされてリズムが整う。そして指令が出されてさまざまな生体リズムを刻んでいくという。腹時計もその一つだと合点がいく。

ところで、「腹」とは一体どこの部分を指すのだろうか? そういえばあまり真剣に考えたことがなかったが、胃や腸と考えれば、いろいろ納得できる。
脳と腸は常に情報交換し合い、密接に影響し合うネットワークで結ばれているという。

「第2の脳」といわれる腸。受精卵から私たちの体ができる時、脳よりも先に腸が形成される。クラゲのように脳のない生きものはいるが、腸のない生きものはいない。生きものにとってはとても重要な部分なのだ。

腸には1億以上の神経細胞があって、脳から指令がなくても独立して消化、吸収、排泄などといった機能を果たすことができる。自律神経といわれるゆえんだ。なんとも偉い存在である。
快感ホルモンのドーパミンも、ストレスホルモンのノルアドレナリンも、幸せホルモンのセロトニンも、その多くは腸で作られるというのだから驚く。体内のセロトニンのなんと9割は腸に存在していて心と体を整えてくれているのだ。

さらに、人間の免疫細胞の70%が腸に集中して存在する。

おなかがすいている時に目の前に食べられそうなものがあったら、脳は「食べろ」と指令を出す。手を伸ばし、パクリ。だが、仮にそれに毒性など危険なものが含まれていたとしても、脳は識別できない。
体に危険なものが入り込んだ時に活躍するのは、腸の神経細胞や免疫細胞だ。第2の脳どころか、第1の脳といってもよいくらいに思えてくる。

その腸の働きに腸内微生物たちが関与していることが分かっている。
私たちの皮膚や、鼻、口、のど、腸など、外の環境と接するあらゆる場所には微生物が住みついている。そして、そのうちの9割は腸内に生息する細菌(腸内細菌)だ。
ヒトの腸に生息する細菌は1000種、百兆個とわれ、善玉の菌と悪玉の菌、そのどちらでもない中間の菌に大別される。中間の菌は「日和見菌」と呼ばれ、その時々で善玉菌と悪玉菌の優勢なほうに味方し、有害にも無害にも働く。この3つのグループが密接に関わり合いながら、複雑で絶妙なバランスを取っているのだ。

腸の健康は腸内微生物の生態系の健全性に依存するという。
私たちの体の中で起こっていることは、土壌における微生物の世界で起こっていることととてもよく似ている。
土壌の生物多様性が低下すると、土は健康でなくなる。
同じように、腸内微生物の多様性が低下すると、復元力や病気への耐性が低くなって不健康な状態になってしまう。
腸内微生物が多様でたくさんの量が存在するほど、腸は健康な状態というわけだ。

外から食べ物を体に取り込んで生きている以上、私たちは外の世界とつながっている。健康な食べものを取り込み、微生物たちに健康な環境を提供して活躍してもらい、健やかにいきたいものだ。

頭の脳はいまひとつだが、腹のほうの脳は見どころがあると自画自賛しながら、さて、今日の夕飯は何を食べようかと考えている。