第10回「海を守れ!」

私たち生命体は海から生まれた。

「水の惑星」と呼ばれる地球。その7割は海だ。海にすむ生きものは23万種ともいわれるが、まだまだ新種が発見され続けているという未知の世界でもある。

20世紀末の数十年でその海洋から世界のサンゴ礁の約20%が失われ、マングローブ林の約35%が失われたという。

開発による生息・生育場の減少、海洋環境の汚染、過剰な捕獲、外来種の導入や気候変動などなど。こうしたことが影響して、豊かなはずの生物多様性は存亡の危機にある。海洋漁業資源が枯渇し、ひいては魚が食卓に上る機会が減ってしまうという困った事態だ。

とりわけ深刻なのが、地球規模で広がっている海洋プラスチック問題だ。2050年には海の中のプラスチックの総重量が魚の総重量を超えるというショッキングな報告がある。

海岸や河口に漂着するペットボトルなどのおびただしい量のプラスチックごみ。ビニール袋は海流に乗って何千キロも浮遊し続ける。自然との共生どころの話ではない。

ウミガメの鼻にプラ製のストローが刺さった動画を見たことがあるだろうか。

死んだクジラの胃からビニール袋などのプラスチックごみが出てきた例は世界中で幾つも報告されている。消化されないプラスチックで胃がいっぱいになると、魚などの餌が食べられなくなり死んでしまうこともあるのだ。40㎏ものビニール袋が出てきたケースもある。プラスチック製の漁網が絡まってしまった海の生き物たちもたくさん報告されている。

プラスチックの厄介なところは、一度流出すると自然に返ることはないということ。

波や紫外線などの影響でやがてマイクロプラスチックと呼ばれる粒子になると、数百年以上もの間、自然界に残り続ける。これを魚や貝が餌と間違えて食べてしまう。マイクロプラスチックがサンゴに取り込まれ、その影響でサンゴと共生関係にある褐虫藻(かっちゅうそう)が減少するといった現象も起きている。こうして生体系のバランスが崩れていってしまう。巡り巡って人体への影響だって心配だ。

ポイ捨てされ、雨や風によって水路へ、そして海に流れ出てしまったものなど、海のプラスチックごみの7~8割は私たちが暮らす陸から捨てられたものだというのだから驚く。そして、毎年約800万トン、ジャンボジェット機にして5万機相当の量が新たに流れ出ているというのだから、これにもまた驚かされる。

身の回りにはあるたくさんのプラスチック製品。手軽で便利で、これがなくなったら困ってしまうほど生活に密着している。しかし、プラスチックが環境に大きな負の影響を及ぼしていることから、もはや目をそらすことはできなくなった。

レジ袋の禁止や使用量の削減、紙や再生可能なレジ袋は生活の中で既に当たり前のこととなった。

植物などの再生可能な有機資源を原料とするバイオマスプラスチックへの切り替えも進められている。

ダイビング中に見つけたごみを回収し、世界の海でクリーンナップ活動しているダイバーたちがいる。

海洋資源の保護と持続可能な漁業の活性化を目指す新しい養殖技術も生まれている。

人間がもたらしてしまった負の問題に対し、人間の英知で解決策を見いだしていくことがきっとできるはずだ。まずは、私たち一人一人が普段からごみを減らす努力をすることだ。

多少不便でも、多少面倒でも、多少我慢しても……そんな気持ちになれるかどうかにかかっている。

(参考)

環境省 海洋生物多様性保護戦略

政府広報インライン 海のプラスチックごみを減らしきれいな海と生き物を守る!~「プラスチック・スマート」キャンペーン~

日本財団【増え続ける海洋ごみ】今さら聞けない海洋ごみ問題。私たちにできること