第9回「選ぶ」と「選ばれる」の関係――目利きたちの奮闘が地球を救う

お買い物はネットで、そんな動きがコロナ禍をきっかけに一気に加速した。

お店に足を運んでじかに商品を見たり手に取ったりすることができないだけに、買う側も慎重だ。見ているのは商品の値段や品質の良しあしだけではない。その「モノ」は誰によってどんな思想でつくられ、どんな過程を経て手元まで届くのか、生産者や企業はもちろん、配送してくれる人も含めてトータルで見ている。

今やモノはモノであることを超え、ライフスタイルと密接に結びつき、自己表現の手段としても大きな意味を持つ。賢くてより良い消費者になりたいと思うからだ。

もちろん人それぞれに価値観も違えば、美意識も違う。購入に際して何に重きを置くかはさまざまだ。

例えば、同じモノを買うのなら地球に優しいものを選びたいという人たちがいる。有機栽培のものを選びたい、自然素材や極力環境への負荷を抑えたものを選びたい、それが自分にとっても心地よい暮らし方だと考える層は確実に増えている気がする。

なぜなら、そんな発信力を持つショップがオンライン上に増えていると感じるからだ。

企業のブランド哲学を打ち出し提案するコンセプトショップ。そして、モノと消費者をつなぐ“目利き”が活躍するセレクトショップもたくさん登場している。選ぶ上でのしっかりとした理念があり、その目にかなったモノを選んで紹介しているのだ。

消費者にも目利きがいっぱいいて、自分の考え方やライフスタイルに合うかどうかをしっかりチェックしている。

単に商品としてモノを売ったり買ったりするのではなく、そのモノに込められた“思い”を共有し、共感し合う。この信頼関係の輪は思っている以上に力強く広がっているような気がする。

選んでもらうためには、売る側にも伝える努力が重要だ。自分でしっかり一つ一つを選びたいという意志を持った消費者にいかに訴えるかが差別化の鍵となる。売り手側の思想や哲学も大切な情報の一つだ。「弊社では環境に配慮して簡易包装です」「仕入れ時のダンボールを梱包材として再利用しています」「フェアトレイドを目指しています」、商品と一緒にそんなメッセージが届くようになった。有機JASマークもその一つ。選び選ばれるための大切な情報であり、より良い未来に向かう道しるべの一つだ。そんな取り組みを知って共感すれば、人はそこから買いたくなる。

最初は単なる情報だったものが、体験して本当に良いと思えば、今度はもっと深く知りたいという興味に変わる。売り手側の発信は誰かにとっての良き刺激となって伝播し、ファンが増えていく。こうして消費者側の目もどんどん養われていく。

情報はどれだけ数を集めても情報でしかない。しかし、一歩深く入り込めば知識となる。知識が深まれば、意志を持って選択するようになる。そんな良い循環になれば、暮らしの中から何かを変えられるかもしれない。1つのショップが社会を動かし、変えるかもしれないのだ。 食べ物であっても、生活必需品であっても、身の回りを彩る小物やファッションであっても、きちんと選び合う世の中になったら確実に変わっていく。一人一人は微力でも、同じ考えの輪がたくさん集まれば大きなうねりとなり、力になっていくのだから。