第28回 全てはバランス

さまざまなダイエット方法がブームとなっては消え、また新たなブームがやってくる。

美しくありたい、若くありたい、健康でありたい、これは永遠のテーマだ。

今は糖質制限ダイエットばやりだが、これは肥満や糖尿病の治療を目的とする食事療法で、痩せたいというだけで安易に走ると健康を害してしまうリスクがあるから注意が必要だ。

糖質は脳のエネルギー源となる栄養素で、人間の体には必要なもの。

過度に制限することで低血糖を引き起こしてしまうと、思考力は低下、イライラ、頭痛、吐き気、めまいなどの症状が起きる。

どんなに体に良いものでも、そればかりを食べていたら栄養が偏り、健康を損ねてしまうのは言うまでもない。

足りない栄養素を補おうとサプリメントばかりに頼ると、別の健康問題が生じる。

結局行き着くところは、栄養バランスの取れた食事が大切だということ。

全てはバランスなのだ。

薬も過ぎれば毒になる。

百薬の長といわれ、コミュニケーションの潤滑剤にもなってくれる酒も、度が過ぎるほど飲めば今度は酒に飲まれてしまい……あとは想像に難くない。

バランスが大事、考えてみれば何事にも当てはまる。

「過ぎたるは猶およばざるがごとし」――やり過ぎは、やり足りないのと同じように良くない、何事も中庸が大事だと孔子は『論語』の中で説いている。

思い当たることがたくさんある。

人は、事がうまく運んでいるときは調子に乗ってもっともっとと前のめりになり、それが高じると奢って周りが見えなくなり、結局失敗する。

失敗を経験すると、次は同じことを繰り返さないようにと慎重になるが、極端に慎重になり過ぎると、今度は臆病風に吹かれて前に進めない。進めなければ、進歩もない。

どちらに偏っても事はうまくいかないのだ。

人間関係においてもバランスが大事だ。

私たちは常に上手に相手との距離感を図りながら関係性を築いているものだが、良かれと思って言ったことでも、言葉が過ぎれば思いもかけない傷を相手に残すこともある。

善意のつもりの行動も、一線を超えてしまえば自己満足の押し付けとなり、相手にとっては迷惑行為となる。

善意も度が過ぎれば悪意に変わってしまうのだ。

お金は、あり過ぎてもなさ過ぎても人を変えてしまう。

情報は、知り過ぎても知らな過ぎても判断の目を曇らせる。

自然界もバランスが大事だ。

生物由来の有機肥料であっても、過剰に与えると肥料焼けなどといったダメージを与えてしまうし、土壌環境をよく知って施さなければ、自然の循環システムまでも狂わせてしまう。

自然のこと、土のこと、水や太陽のこと、作物それぞれの個性、いろいろなことを知った上で初めて「バランス」の取り方が見えてくる。

例えば農業における過度な窒素利用の問題。

生物にとって必須元素である窒素も、増え過ぎれば悪影響を及ぼすことになる。

自然の循環の中では、植物や微生物が窒素化合物を利用することで良いバランスが保たれている。

しかし、人為的に生成された窒素化合物が増え過ぎて生態系が必要とする量を越えてしまうと、窒素飽和状態となる。

生態系で利用し切れなくなった窒素は、硝酸イオンとしてやがて川から海へと流れ出る。

そして水源水質の悪化や湖沼や内湾の富栄養化など、さまざまな問題の原因となる。

過不足ない中庸が大事、何事も極端に振れず調和を取ってバランス良く。

では、バランスを取るための秘訣は何か。

まずは、何事もより広く・より深く知り、考えることからか。

徳川家康は「東照公御遺訓」の中に、「及ばざるは過ぎたるより勝れり」と遺した。

「やり過ぎてしまうより、足りない方が良い」というわけで、奢らず、油断せず、謙虚であれと戒めたのだ。

これもまた、なるほど、である。