第23回 子どもは魚が嫌い?

「およげ!たいやきくん」という歌があった。昭和50年の大ヒットソングだ。
オリコン史上初のシングルチャート初登場1位と11週連続1位を記録し、この金字塔は今も破られていない。当時、どこのたい焼き屋の前にも行列ができたというほど、社会に与えたインパクトは強烈だった。

「毎日毎日 僕らは鉄板の上で焼かれて 嫌になっちゃうよ」という歌詞と哀愁たっぷりのメロディーは大人にも刺さった。毎日毎日嫌になっちゃっているサラリーマンの代弁でもあった。

ある朝、たいやきくんは店のおじさんとケンカして海に逃げ込む。
初めて泳いだ海の底はとても気持ちが良かったようで、この歌を聞いて脱サラを考えたオジサンたちも少なくないだろう。
だが、最後は無念にもエビと間違えて食いついた釣り針でつり上げられ、食べられてしまう。
「やっぱり僕はたい焼きさ、少し焦げあるたい焼きさ……」というぼやきが何とも切ない。

とまあ、大人の目線で分析するとこうなるが、子どもたちにすれば、たい焼きが海を泳ぐなんて興味津々だし、その冒険はとても楽しそうでワクワクする。いや、たい焼きが海を泳ぐことだってそれほど不思議には思わなかっただろう。だって、たい焼きくんは鯛なのだから。

しかし、今の子どもたちの場合、話は少し違ってくる。
なにしろ、魚の本来の姿をよく知らないらしいのだ。
切り身やお刺身になった魚と、生きている魚の姿がつながらない。大きさもイメージできない。切り身で泳いでいると思っている子どももいるというのだから、たいやきくんどころではない。

親は仕事、子どもは塾や習い事と、それぞれみんな忙しい。
親にとっては、鮮度が落ちやすい魚を家でさばいて調理するなんてハードルが高過ぎる。調理に手間をかける時間も、家族そろって食卓を囲む時間もなかなか取れない。
そのうえ値段も高めとくれば、肉のほうが手っ取り早い。

そんなわけで、日本人の「魚離れ」がいわれるようになって久しい。
魚を食卓から遠ざけてしまう理由は、「調理が面倒」、「肉よりも値段が高い」、「食べるのに手間がかかる」、「生ごみの処理が大変」など。食べた後に残るにおいも厄介だし、魚焼きの網を洗うのだって面倒だ。
「魚は外で食べるもの」という位置付けになるのも致し方ないかもしれない。

しかし、このまま魚離れが続いてしまうと、日本の魚食文化も消えてしまうことになる。未来を担う子どもたちの魚離れは特に深刻な問題だ。

では、子どもたちは魚が嫌いなのかというと、そんなことはない。
平成20度の調査時点では、魚を「好き」と答えた割合45.9%に対して、「嫌い」と答えた割合は10.6%だ。
特におすしは人気があって、好きなすしネタベスト3はマグロ、イクラ、サーモン。

一方、魚が嫌いな理由として挙がったのは、「骨があるから」、「食べるのが面倒」、「においが嫌い」など。嫌いな魚の上位はサバ、サンマ、アジなどで、なるほど、鮮度が落ちやすくて小骨が多い魚たちだ。
今は上手に箸を持てる小学生は半分程度だというから、魚の骨が嫌がられるのも無理はない。

子どもは本能的に食べづらい形態を嫌ったり、酸っぱいものや生臭いにおいのするものを避けたりする傾向があるという。
大人になると抵抗がなくなって好きになることもあるものだが、それには子どもの頃の食の体験が大事なのだという。
海や魚に触れる機会がなければ、新鮮なおいしさを知る機会もない。
これでは、健康も食文化も水産業も、そして日本の将来も危ういではないか!

というわけで、未来を背負って立つ子どもたちに、魚のことを知って、好きになって、たくさん食べてもらいたいと、今、さまざまな取り組みが行われている。
水産庁は昨年、消費者に魚食文化の大切さを再認識してもらおうと毎月3日から7日を「さかなの日」と制定した。
下処理済みのものや、ファストフードのように手軽に食べられる商品がたくさん開発されている。
コンビニには、レンジでチンすればすぐに食べられる焼き魚や煮魚が並ぶ。
さかなの伝道師「おさかなマイスター」が食育活動をしている。
学校給食に魚を取り入れる取り組みもされている。

そして、水産物にもオーガニックやサステナブルの概念が広がっている。
水産エコラベル認証の仕組みもある。
生態系に影響を及ぼさず、海と生きものの未来が持続可能であるように。

生きているものは皆、他の生命をいただいて生きている。
だからこそ大切にしなければならないし、大切にいただかなければならない。
魚をさばくシーンは残酷だから見せない、そんな風潮があるのだとしたら、命のありがたさを知る機会を失うことになるのではないか。
そんなことを考えながら、たら鍋をつつく。よくぞわが家に来てくれたと、頭から尾の先まで、アラもありがたく全部いただく。“たらふく”とはよく言ったものだ。

参考
水産庁HP 平成20年度水産白書(第1章 特集2 -子どもを通じて見える日本の食卓-)