有機農業へとかじを切った日本の農業政策。もう農薬や化学肥料に頼るわけにはいかない。
しかし、有機肥料であっても与え過ぎれば窒素過多となり悪循環を生むし、無農薬で育てようとすれば病害虫との戦いに悩まされる。
病害虫といっても生きものに変わりはない。彼らにも生きる権利がある。
「殺虫」ではなく、自然の摂理と循環の中でご退場願いたいものだ。
そのために、経験知や科学的知見、そして技術の力を借りてさまざまな試みが実践されている。
例えば、ある虫が嫌いな“臭い”を利用して寄り付かないようにする工夫。
反対に、ある虫が好きな“匂い”で誘導し、寄生されそうな野菜を守る方法。
もちろん植物由来など環境や生きものに害のないものや、自然界にある力を借りるのだ。
コウノトリの最後の生息地であった兵庫県豊岡市では、「コウノトリ育む農法」に取り組んでいる。コウノトリの餌場となる環境をつくって米づくりをするという、共生への取り組みだ。
日本のコウノトリは昭和46年に絶滅した。
明治時代以前は日本各地に生息していたが、乱獲と戦後の農薬・化学肥料の使用や河川の護岸コンクリート化が進んだことで、餌となる多くの生きものが姿を消してしまったのだ。
そればかりでなく、有機水銀の蓄積された餌を食べて命を落とすコウノトリも現れるようになっていった。
コウノトリが餌としているのは、田んぼにすむフナやドジョウ、カエルやヘビ、バッタなど。そんな生きものが暮らしやすい環境を取り戻した田んぼでは、そこで生まれて成長したカエルやクモ、カマキリが、稲を食い荒らすカメムシやゾウムシなどの害虫を補食してくれているという。
アブラムシについてはこんな話を聞いた。
作物の養分を吸い取って弱らせ、病気の菌やウイルスも媒介する迷惑者のアブラムシたちは、種類ごとに好きな植物が異なるというのだ。
例えば、麦に付くアブラムシは野菜には影響を及ぼさない。
アブラムシの天敵はテントウムシだ。テントウムシのほうは選り好みせずどんな種類のアブラムシもせっせと食べる。
そんな習性を利用する。
春先に野菜の苗づくりをする時に麦を一緒にまいておくと、成長の早い麦にアブラムシが集まる。そのアブラムシを狙ってテントウムシが集まる。そして、選り好みしないテントウムシは、苗に付くアブラムシもどんどん食べてくれる。テントウムシは幼虫の時からアブラムシを食べる。その結果、苗は幼少期からテントウムシにガードされた状態で育つというわけだ。
ただし、ニジュウヤホシテントウの仲間はナスやジャガイモの葉を食べてしまうので話は別だ。
こんな話も聞いた。青虫は栄養価の高い野菜は食べないという。
青虫には胃液がないので、栄養価の高いもの、つまりビタミンCやポリフェノールなどの高分子の栄養素は消化吸収できない。一生懸命食べても成長効率が悪いのだ。
というわけで、青虫は栄養価が低い弱ったものを選んで食べている。
有機で育ったキャベツは、ビタミンCをたっぷり含んでいて栄養価が高い。
そんな元気なキャベツには青虫がこなくなる。元気な野菜ほど虫がこないというわけなのだ。
もちろん、そうなるまでには手間暇かけて世話をする必要があるし、知恵も根気も必要だ。
それでも、環境に負荷をかけず自然と共生する農業に挑んでいる人がいる。ステキなことではないか。
参考
『長岡新聞』2021.3.3 ㈱菌ちゃんふぁーむ代表 吉田俊道 「有機農業の世界とコロナ1」
㈱菌ちゃんふぁーむ 吉田俊道ブログ
ビオシェルジュ(運営会社マクミノル) オーガニック農業プロの技その1「益虫テントウ虫・垂直立ち上げ戦略」
JAたじまHP 「コウノトリ育む農法」