第75回 自分以外のものを思うこと

4月、新しい始まりの季節である。
「さあ、頑張るぞ」と何となく希望が湧いてくるのは、ポカポカした陽気のせいだろうか?

わが国は「みどりの食料システム戦略」の中で、2050年までに耕地面積の25%を有機農業にする目標を掲げている。
この数字がいかに高いハードルであるかは、この目標が策定された当時の有機農業面積が1%未満であったことでも分かる。

技術、市場、生産者、消費者、どの側面を捉えても課題は山積みで、目標達成への道のりは非常にけわしい。
特に日本の場合は「環境への配慮」が物を買う動機に結び付かないというのが、ヨーロッパとの大きな違いである。
つまり、まだまだ消費者の意識は変わらず、オーガニックに対するニーズは高くないのが現実なのだ。

そのため、有機農業を選択する生産者にとって、販路の確保は難題の一つである。
転換していくことが未来の食を守ること、ひいては地球を守ることなのだと分かってはいても、つい目先の経済面や労力面、市場や環境など、立ちはだかるたくさんの壁を前にくじけそうになる。
現実は決して楽ではない。何しろ生きていくのは大変なのだ。

では、オーガニックに挑戦している人たちは、なぜその道を選んだのか。
返ってくる言葉は潔く、前向きである。
作物が元気なのが分かるから楽しい。
牛たちが気持ちよさそうに草をはむ姿を見るのがうれしい。
手を掛けた分だけ応えてくれるので愛おしい。
健康な地球を守ることに少しでも役に立っていると思うとやりがいがある。
子どもたちに安全・安心で豊かな未来を残したい。

そして、オーガニックという付加価値が大きな経済的メリットを生む、それもまた選択理由の一つである。

彼らは、そんなことを実感できる仕事が「大変だけど楽しい」のだと言う。
「楽しい」と思える、それはとても幸せなことである。
そしてそれこそが、「全ての命を幸せにする仕組み」へ確実につながっていく鍵ではないだろうか。
なぜなら、そこには必ず自分以外のものへの眼差しがちゃんとあるからだ。