第24回 未来に向かって、泳げ、養殖魚たち!

四方を海に囲まれた日本。
古くから海の恵みをいただくことは人の普通の営みの風景であり、そこから豊かな魚食文化が育まれてきた。

ところが、今や私たちが食べている水産物の半分以上が輸入ものになっている。
漁業者の減少、魚離れ、乱獲による水産資源の枯渇など、日本の水産業は多くの問題を抱えているのだ。

日本人の魚中心の食事は長寿の秘訣といわれ、世界のお手本だったはずなのに、魚の国内消費量は年々減少。日本人が1年間に消費する魚介類の量は、2001年をピークにこの20年で40%以上も減少した。

世界全体の漁獲量は増加しているのに、資源量も漁獲量も日本だけが減り続けている。
その理由の一つが乱獲だ。
かつては持続可能な漁業などという意識はなく、稚魚であっても構わずみんな獲って、獲れなくなったらまた別の場所で獲るという発想だった。

しかし、環境に配慮して適切に管理されたサステナブルなものでなければ受け入れられない時代になった。漁業先進国では稚魚や幼魚を獲らないように管理している。
日本でも2020年に70年ぶりに漁業法が大きく改正され、国は資源管理にかじを切ろうとしている。

海外では和食ファンが増え、日本食レストランが急増している。メニューの中心はもちろん魚だ。良質の動物性タンパク質が摂取できて、その上低カロリー。さらに、DHAやEPAといった機能性成分も豊富というわけで、健康・美容への意識が高まる中にあって魚食は世界の注目の的なのだ。
かつては漁獲量世界一を誇る「水産大国」だった日本では消費量が減る一方で、世界では魚食の人気が上昇中というのだから、なんとも皮肉な話だ。

しかし、問題はそれが限られた資源であるという現実だ。
日本では人口も魚の消費も減少しているが、世界の人口は80億人を超えている。世界全体ではさらに人口増加は続く。
人口が増えれば必要な食料の量も増える。世界的に見れば需要に追い付かず、それが水産物の価格を押し上げる。

そこで期待がかかるのが養殖漁だ。
必要な供給量を維持するために養殖ものの生産を増やすことは不可欠になっている。
日本では、クロマグロ、サーモン、エビは、養殖ものの水揚げ量が天然ものを上回っている。ブリやハマチ、マダイ、カンパチ、トラフグ、ヒラメも、シマアジやマアジも、カサゴやメバルもマサバも養殖されている。ウナギはほぼ100%養殖だ。

しかし、養殖魚が増えれば問題が解決し、未来は明るいというほど話は簡単ではない。
養殖には大量の餌が必要になる。クロマグロを1キロ育てるには15キロの餌が必要だという。植物由来の餌なども研究開発されているが、餌の確保はまず大きな課題だ。
生産を拡大するための養殖場の確保の問題もある。

稚魚の段階での乱獲につながることもまた問題だ。
養殖であれば天然資源を守れるかというと、実はそういうわけでもない。
養殖には、人工的に採卵・ふ化させた稚魚を使う完全養殖と、海で捕獲してきた天然稚魚を育てる方法と、2種類ある。
天然の資源に負荷を掛けないために完全養殖に期待がかかるのは当然のことだが、実現までの道のりは険しい。
そして、完全養殖が実現しても、量産化に至るにはさらなるハードルがある。
成長が早くて病気に強い個体を選んで繁殖させることが鍵となるが、研究のためのコストも時間もかかる。
養殖漁=たくさん生産できる=おいしいものが安く食べられる、なかなかそうはならないのだ。

欧米では、「たとえ安くても、資源を考えずに漁獲された魚は食べるべきではない」という考え方が社会に広まっていて、生産工程に対して高い意識が向けられている。
日本ではどうだろうか。
多少割高でも、天然資源に影響を与えない方法で生産された魚を食べたいと思えるかどうか、これはなかなか痛い問いである。

持続可能な水産業であるために、私たちの意識も変わらなければならない。
どんな所で養殖されているのか。どのようにして食卓まで届くのか。
餌のこと、伝染病などの病気やワクチンのこと、養殖環境のこと、環境に与える負荷のこと、きちんと知ることから始めなければならない。

毎日の食事から健康はつくられる。
おいしい魚を食べ続けたい。
魚離れから脱却し、安心しておいしく魚を食べ続けることができるように、頑張れ、養殖漁たち!

参考
水産庁 令和4年度水産白書
一般社団法人 全国海水養魚協会(絵で見る海面魚類養殖業)
東洋経済ONLINE(魚が獲れない日本 「養殖でいい」は甘すぎるワケ」)
未来コトハジメ(なぜ「近大マグロ」の実績が減ったのか 完全養殖技術が拓く魚食産業の未来 前・後編)