第67回 虫だっておいしいほうがいい

前回に続いて私事で恐縮だが、先日買ったレタスの話である。
何もかもが値上がりし、家計は大変。
少しでもと欲を出し、どっしりと重いレタスを選んだ。
家に帰り、さっそく調理しようと思って手に取ると、外側の葉がうっすらと茶色に変色しているではないか。
不覚にも気付かなかったのだ。

1枚剥いてみた。
ん? 次の葉も変色している。
えっ、その次の葉もだ。しかも激しく変色している。
恐る恐るもう1枚剥いてみると、細長い小さな虫が現れた。黒みがかった緑色をしている。

一瞬ムッとした。
せっかく有機栽培のレタスでおいしいサラダをと思って買ったのに、がっかりである。

だが、待てよ……と思い直す。
「虫食いがあったら、それは虫の分なのだ」と、かつて学んだではないか。
そんなふうに思えるなんて、なんて素敵なのだろうと感動したではないか。

考えてみれば、虫がいるということは、その野菜は健康だという証しでもある。
野菜に虫が潜んでいるなんてあり得ないという時代が続いていたのだから。
形がそろっていて、虫食いもなく、年中手に入る、それが当たり前であった。
それが、「オーガニック」という考え方によって大きく変わった。
日本の場合、「変わりつつある」というくらいかもしれないが……。

元気な野菜がどんなものか、健康な土壌の持つ力、太陽や水の恵み、生きものたちの活躍、いろいろなことが少しずつ理解されるようになり、環境に負荷をかけずに暮らすことの重要性を身をもって知る時代となった。
頻発する自然災害はその規模もパワーも年々増し、全てがつながっていることをまざまざと見せつける。
一人一人にできることは小さいかもしれない。
だが、この地球上で暮らす一員である限り、私たちには未来を守る義務がある。

そう考えたら、レタスから現れた小さな虫を無下にするわけにはいかなくなった。

考えてみれば虫のほうこそ驚いただろう。
おいしくて心地よいベッドにいたはずが、葉っぱの布団を剥がされてあらわな姿になったかと思ったら、つまみ上げられてポイと外に放り出されたのだから。
ここは一体どこなのかと、きっと戸惑ったに違いない。

おいしいレタスを分け合った虫よ、名は何というのだ?
自然界に帰したのだから、たくましく生き延びるのだぞ。