ラベンダーが咲く時期になると決まって思い出すドラマがある。
「北の国から」――北海道の大自然を舞台に、離婚して都会から故郷に戻ってきた父と2人の子どもたちの成長を21年にわたって描いたドラマだ。
1981年の第1話から最終話の2002年まで、主人公の黒板五郎を演じたのは、2021年に亡くなった田中邦衛さん。
兄の純役を演じた吉岡秀隆さんは、始まった当時は11歳。妹役の中嶋朋子さんは10歳だった。いまや2人とも脂の乗った大物俳優である。
彼らが30代の大人になるまでと同じ時間軸でドラマの中の時も流れ、出演者も皆同様に実際の歳を重ねていくので、これは現実の話だと錯覚するほどの、奇跡のような作品だ。
暮らしを営むということ、そして喜怒哀楽にまみれながら懸命に生きる人間の姿がとても魅力的に描かれている。
リアルに見た世代、特に同世代の人の中には、このドラマと共に思春期から青春時代を生き、気持ちを重ねながら大人になった方も多いだろう。
このドラマで富良野は一大観光地になったのだった。
脚本を書いたのは倉本聰氏。
そこには、今の時代にもなお強烈に響くはっきりとしたメッセージがある。あらためて見直してみると、その先見性と視点の深さに驚くばかりだ。
そんなことを考えていた矢先に、全く共感する内容の記事に出会った。
読みながら思わず、そうそう、そのとおり!と何度も膝をたたいていた。
主人公の黒板五郎は、廃材や拾ってきたもので家を造る。
拾ってきた石だけで自慢の風呂まで造ってしまう。
電気は風車で起こし、水は沢から引いてくる。その装置は自分の手でつくる。
畑に使うのは牛糞や生ごみを発酵させた堆肥、そして木酢液だ。
現金に頼らない生活とはどんなものか。
知恵と体を使うとはどういうことか。
自然と共生するために人間がすべきことは何か。
そして、生きる上で何が一番大切なのか。
たくさんのことをこのドラマから教えられる。
ドラマは自然の厳しさや恐ろしさ、そして懐の深さをも描いている。
大雨で大きな被害を受ける畑、一瞬にして全てを失う農家のこと、化学肥料のことも。
第1話放送から数えると40年以上、最終話の放送からでさえ20年以上もたつというのに、色あせることなく世代を超えて見る人の心を揺さぶり、その一方で冷静に「これでいいのか?」と疑問を突き付けてくる。
最終話「2002遺言」に凝縮されたメッセージ。
この魂のこもったメッセージをやはり紹介せずにはいられない。
――「金なんか望むな。倖せだけを見ろ。ここには何もないが自然だけはある。自然はお前らを死なない程度に充分毎年喰わしてくれる。自然から頂戴しろ。そして謙虚に、つつましく生きろ。それが父さんの、お前らへの遺言だ」――
今を生きる私たち、そして次の時代を生きる人たちへ、脚本家からの遺言である。
それから既に20年以上の月日が流れた。
私たちはこのメッセージをちゃんと受け取ったのだろうか。
今、あらためて考えている。
参考
SDGs ACTION!「自然から頂戴しろ、謙虚につつましく生きろ 「北の国から」の五郎さんに学ぶSDGs 井出留美の「食品ロスの処方箋」【30】2024.03.01 (最終更新:2024.07.03)
https://www.asahi.com/sdgs/article/15178610