今年も残すところあとわずか。
耳慣れた「第九」のメロディーに出くわすと、なんとなく気が急いてくる感じがしないでもない。
あのリズムに乗って大掃除でもすれば、とてもはかどりそうだ。
「交響曲第9番 ニ短調 作品125」、ベートーベンによる9番目にして最後の交響曲、とりわけ「歓喜の歌」の大合唱は、一年を締めくくるにふさわしい圧巻のスケールである。
ところでこの「第九」、1時間を超える演奏時間も型破りなら、交響曲に「歌」が入るのも歴史上初。
それだけではない。ベートーベンはこの作品の中で、古い伝統をぶち壊して新しい境地へ到達するという革命をやってのけたのだ。
第1楽章から第3楽章までは伝統にのっとり楽器だけで作曲されているが、第4楽章の冒頭で「驚愕のファンファーレ」といわれる不協和音が鳴り響き、そこからチェロとコントラバスによる会話のような旋律の模索が始まる。
そして再び「驚愕のファンファーレ」が鳴り響き、バリトンの独唱が歌う。
「おお友たちよ! この音ではないんだ! もっと心地よいもの、喜びに満ちたものを響かせようじゃないか!」と。
やがて合唱が加わり、そのスケールはどんどん膨らんでクライマックスを迎える。
オーケストラは主に木管楽器、金管楽器、弦楽器、打楽器の4つに分けられるが、私のような楽器の知識を持ち合わせていない者は、木管楽器と金管楽器の違いもよく知らない。
フルートやクラリネットは金属で作られているのに「木管楽器」だといわれてもピンとこない。
金管楽器と木管楽器は別物である。
その違いは、金管楽器は唇を震わせて音を鳴らす、木管楽器は「リード」と呼ばれる薄い木の板のような部品を振動させて音を出すということ。
例えば、金属でできたサキソフォンもやはりリードを使って音を出す「木管楽器」である。トランペットの仲間ではないのだ。
ところが、同じ「木管楽器」でも、フルートはリードを使わない。エアリードといって、管の中の空気を共鳴させて音を出す。
何やら混乱してきたが、ここで言いたかったのは、オーガニック認証を取得したリードがあるということ。
世界で最も厳しいともいわれる米国農務省が定めるオーガニック認証「USDA」を取得したリードで、リードにもオーガニックの考え方が浸透してきたということである。
リードの主な材質は竹の一種であるケーン(葦)。
天然素材であるため一本一本に個体差があり、音色や吹き心地が違うのだとか。
オーガニックと聞くとつい食べるものに頭がいくのだが、考えてみればリードは直接口に当てるものだ。
オーガニックの考え方がこうして芸術の世界にも広がっているのである。
ベートーベンが20代後半から徐々に聴力を失っていったのは有名な話だ。
音楽家としては致命的なその運命を受け入れ、数々の名曲を生み出した。
そして「第九」が完成したのは亡くなるわずか3年前。
時空を超えて愛される「喜びに満ちた響き」を紡ぎ出したのである。
2025年も暮れて行く。
「世界の人たちと喜びを分かち合う」、そんな年への扉が開くことを願わずにはいられない。
