11月21日はボジョレー・ヌーヴォーの解禁日だ。
この時期になると毎年ちまたで話題になるので、ワイン通ではなくても、初物のワインで乾杯も悪くないかなという気分になる。
ボジョレー・ヌーヴォーの最大の輸出先は日本である。
日本では1976年に航空便による輸入が始まり、その10年後の1980年代後半にブームに火がついた。バブル景気に沸いていた時期である。
「ボジョレーの新酒を本国フランスに先駆けて味わえる」、これが「初物」と聞くと血が騒ぐ日本人気質をくすぐったらしい。
日付変更線の関係によるトリックでその差は8時間ほどだが、何しろフランス政府が定めた解禁日までは販売することも飲むことも許されないのだから、こんなおいしい付加価値はない。
それにしても、世の中には数えきれないほど様々なワインがあるというのに、なぜボジョレー・ヌーヴォーはこれほど話題になるのだろうか?
そもそもボジョレー・ヌーヴォーとは何ものなのか。
「ボジョレー・ヌーヴォー」は、言わずと知れたフランスワインの銘柄地・ブルゴーニュ地方の南部ボジョレー地区でその年に収穫した黒ブドウの「ガメイ種」のみで造られる新酒を言う。
ボジョレー地区はなだらかな丘陵地帯で、その名の由来は「美しい高台」を意味するBeaujeu(ボージュ)。
ヌーヴォーは、フランス語で「新しい」という意味だ。
ヌーヴォーワインは地元の人々がその年のブドウの出来具合を確かめるためのワインであり、収穫を祝って飲む地酒である。
そのヌーヴォーワインの中でも、ボジョレー地区原産のガメイで造られた新酒を「ボジョレー・ヌーヴォー」と呼ぶのだが、実は「ボジョレー・ヌーヴォー」と名乗るためには厳格な決まりがある。
フランスではA.O.C.(原産地呼称保護制度)というワインの法律によって、地区ごとに製法や使用できるブドウ品種などが厳密に決められ、管理されている。
特定の地域やそこで生産されるものの品質を保証し、守るためだ。
そのため、「ボジョレー・ヌーヴォー」と名乗れるワインは、フランスワインの中でもごく少数に限られ、細かい規定によって4段階に格付けされている。
伝統と文化を重んじるフランスワインのプライドを感じるではないか。
熟成させて出荷される他のワインと違い、収穫から2カ月で飲めるようになるそのスピードの秘密は製法にある。
縦型の大きな密閉ステンレスタンクに収穫した「ガメイ」を房ごとそのままいっぱいに詰め、ブドウが潰れて発生する二酸化炭素(炭酸ガス)を利用して自然発酵させるのだ。
これによって渋みのないフレッシュなワインになる。
もちろん、時代を反映し、オーガニックのボジョレー・ヌーヴォーを造っている生産者もいる。
世界最大クラスの国際有機認定機関「エコサート」、EUの「ユーロ・リーフ」、フランス政府による「AB認証」など、ハードルの高い各種の厳しい基準をクリアして生まれたボジョレー・ヌーヴォーたちである。
時代といえば、ヨーロッパでは若者を中心にワインの消費量が減少しているという。
お酒を飲まない人が増えているのは世界的な潮流なのだ。
一方で、拡大しているのがノンアルコール市場である。
ワインの法律まであるフランスも、実は世界で最も急速にノンアルコール飲料市場が成長している国の一つなのだ。
これも時代である。
既にノンアルコールの“ヌーヴォーワイン”は発売されている。
ノンアルコールの「ボジョレー・ヌーヴォー」が登場する日だって、そう遠くないかもしれない。