第39回 スズメのお話 その1――『舌切りスズメ』の教え

スズメが絶滅危惧種になりそうな勢いで減少している。
環境省が研究者や市民らの協力を得て、2003年から全国1,000カ所で続けている生態系のモニタリング調査の結果だ。
全国の里山に生息する鳥やチョウたちの個体数が急速に減少しており、このまま減り続けると私たちの身近にいるスズメなど16種が環境省のレッドリスト入りしそうな危機的状態だと分かったのである。

その背景には、地球温暖化で生存に適した気温ではなくなったこと、管理されなくなった里山が増えて里山の自然環境が変わったことなどがあるという。
水田や草原が減少したことで餌となる虫が減り、営巣場所となる木造建築なども減っている今の世の中は、スズメにとって暮らしやすい場所ではなくなってしまったのだ。

スズメといえば普通にそこら辺を飛び回っている鳥という感覚で、その生態について深く意識したこともなかったが、子どもの頃に聞いた『舌切りスズメ』の話はなかなか衝撃的だった。

お爺さんが大層かわいがっていたスズメが、ある日、お婆さんが作った糊(のり)を全部食べてしまった。激怒したお婆さんは、スズメの舌を切って追い出してしまう。

心優しいお爺さんはスズメを案じ、山に捜しに出掛ける。
竹藪の中でやっと見つけたスズメのお宿で無事再会し、お爺さんは手厚いもてなしを受ける。そしてお土産に大小2つのつづらのどちらかを選んでくれと言われる。
年を取っているし、帰りの山道はこたえるからと、お爺さんは小さいほうのつづらをもらって帰り、家に着いて開けてみると、中から金銀や宝珠の玉や小判が出てきたではないか!

一部始終を聞かされたお婆さんは、大きいつづらを選ばなかったお爺さんに散々文句を言うと、ならば私も行って大きいつづらをもらってこようと、鼻息荒く出掛けていく。

首尾よく大きいつづらを手に入れ、ほくほく顔のお婆さん。
歩くうちに、なんだかどんどん背中のつづらが重くなるような……さぞたくさんの財宝が入っていることだろうと思うとがまんできなくなくなり、お婆さんはつづらを開けてみる。
出てきたのは恐ろしいお化けや毒蛇や毒虫たちだった、という落ちだ。

生きものに無慈悲なことをしてはいけない。
欲張ってはいけない。
自分がしたことは必ず自分に返ってくるものだ。

時代は移り、科学万能主義、人間中心主義に取りつかれた私たちは、そんな教えはすっかり忘れてしまったようで、自分たちの行動によって身近な環境が揺らいでいることにも気付かずにきてしまった。

世界自然保護基金(WWF)は、自然と生物多様性の健全性を測る数値「生きている地球指数」が、1970年から2020年のわずか50年の間に平均73%減少したと発表した。
自然の損失と気候変動という2つの連鎖した危機によって地球は危機的な転換点に直面しており、今後5年の行動が鍵になると対策の強化を求めている。

全ての命は自然の循環の一員であり、里山に起きている問題は里山だけの問題ではないのだ。

ところで『舌切りスズメ』だが、考えてみれば、大事な米で作った糊を勝手に全部食べてしまったスズメには確かに非がある。
お婆さんにすれば、米を食害するいまいましい害鳥に映ったであろう。
だが、スズメは田んぼでせっせと害虫を食べてくれる益鳥でもある。
お婆さんは、どうやら生態系を維持することの重要さまでは思いが及ばなかったようである。