第32回 レモン・爽快丸かじり

暑くなると、爽やかなものが恋しくなる。
例えばシュワシュワっと泡がはじけるソーダ、そこに浮かぶ黄色いレモン。
考えるだけで少し涼しい気分になってくる。

レモンは「爽快」の代名詞のような存在だ。
想像するだけで口の中が酸っぱくなってくるし、鼻先に香りまで漂ってくるようで、梅雨の湿っぽい時期をスカッと爽やかに過ごすのに一役買ってくれそうだ。

レモンの活躍領域は広い。
例えば、果汁にはクエン酸が大量に含まれている。これが水垢や汚れを落としてくれるということで、掃除用洗剤に使われている。

好感度ナンバーワンといってもいいフレッシュな香りは、身の回りのいろいろなものに使われている。
あの香りの源は「皮」にある小さな点々だ。「油胞」と呼ばれ、精油が豊富に詰まっている。
この成分は香料としてはもちろん、天然由来の溶剤としても使われる。
例えば油汚れを落とすための洗浄剤やガム剥がし用の溶剤の成分、発泡スチロールを溶かしてリサイクルするのにも利用されている。

レモンといえばビタミンCの代名詞でもある。
ビタミンCには抗酸化作用や免疫力を高める働きがあることはよく知られている。
少しでも若く美しくいたいと願う気持ちにも応えてくれそうで頼もしい。
そして、目にも清々しい黄色は見ているだけで元気になってくる。

そういえば、レモン=ビタミンC=黄色、何となくそんなイメージがある。
柑橘類にビタミンCが豊富に含まれることから、鮮やかな黄色や緑、オレンジ色などをビタミンカラーと言うが、そんなことからの連想だろうか。
ところが、ビタミンCは黄色ではなく無色透明なのだから、これは思い違いなのである。

思い違いといえば、フレッシュ感満載のレモンだけに夏が旬というイメージがあるが、これも国産レモンには当てはまらない。国産レモンの旬は冬である。
国産レモンが市場に多く出回るのは10月からで、11月ごろから春先までがもっとも収穫量が多い。
ちなみに、11月から12月のレモンはグリーン。12月から3月にかけておなじみのレモンイエローとなる。

なんと国産レモンは6月から8月はほとんど出回らないのが現状なのだ。
つまり国産レモンのみで一年中供給することは不可能なのだが、それでもレモンは一年中手に入る。輸入レモンが国内産レモンの収穫できない時期をカバーしているからだ。

日本で初めてレモンが栽培されたのは明治時代のこと。
瀬戸内海を中心に栽培が広がったが、1963年の輸入自由化によって大打撃を受けて激減した。
国産レモン復活のきっかけは、1975年にアメリカ産レモンから防カビ剤の一種OPPが検出された「ポストハーベスト農薬問題」だった。

外国産のレモンは未成熟のまま、防カビ剤や防腐剤が使われた状態で船積みされる。
柑橘類に使用される防カビ剤は、日本では腐敗防止が目的で使われる食品添加物として扱われる。もちろん規制があり、残留農薬の基準も設けられている。

「ポストハーベスト農薬問題」以来、国産レモンは増産が進み、自給率も高まってきた。
今では「瀬戸内レモン」や「有機レモン」などとブランド化して広く浸透し、産地の活性化の原動力となっている。

といっても、もともとレモンは温暖な地域にしか育たず、国内での自給率は10%程度しかない。その80%以上を生産量日本一の広島県と、愛媛、和歌山で担っている。
価格も割高になるが、安心・安全なものを提供すること・選ぶことが当たり前となった時代にあって、防カビ剤を使わずに完熟した状態で手に入る国産レモンの需要が増加するのは当然の流れだ。

それにしても、レモンは夏が旬というイメージもビタミンCが黄色というイメージも全くの思い込みなのであり、こうした例は意外にたくさんありそうだ。

そういえば、幼なじみの想い出は青いレモンの味がするらしい。永六輔さんが書いたそんな詞があった。
黄色いレモンではなくて、「青いレモン」である。
これはイメージどおりという気がする。